ハーバード大の哲学者の理論を使って不倫を全力で正当化してみる 2

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「正義とは何か」に関する講義を長年し続けているハーバード大学マイケル・サンデル教授。落ち着きと知的なウィットを兼ね備える清潔感のあるハゲ哲学者です。

前回の「ハーバード大の哲学者の理論を使って不倫を全力で正当化してみる 」では、マイケルくんの理論を応用し、不倫をすることで家庭が豊かになることを論じてみました。

 

今回は、そもそもひとりの異性に忠誠を誓い合う「結婚」という契約自体に不備があるという観点から不倫を正当化してみたいと思います。

 

 

不倫を禁じる結婚はフェアな契約ではない

マイケル・サンデル教授は「正義とは何か」を論ずる過程で、過去の哲学者たちが「公平さ」と正義を結びつけていたことを語ります。

 

結婚は男女がお互いを助け合い、忠誠を誓い合うことにお互いが同意する、いわゆる契約です。みなさんは、結婚がフェアな契約であると思いますか?

妻・夫のどちらにも不倫をしてはならないという制約が課せられるわけですから、一見フェアではあります。でもマイケルくんの理論を当てはめてみるとそうでもなさそうなのです。どちらかが不倫をしてしまったとしても、許されるべきでは、と思えてしまうのです。

 

双方合意しているのにアンフェアな契約

結婚は双方が合意しなければ成立しない契約です。でも、双方の合意の上で行った契約でも、裁判で「この契約は不公平である」とジャッジされたケースがあります。

 

1985年、アメリカはニュージャージー州で、自然な形での妊娠が見込めなかった夫妻と、29歳のMaryという女性の間で代理出産の契約が交わされました。

当時は体外受精の技術は存在しなかったので、Maryの体内で、女性の卵子を夫の精子で人工的に受精させました。つまり妻の卵子は使用しなかったのです。

出産後は、Maryが親権を放棄し、夫妻が子供を養子として引き取り、Maryは金銭的な報酬を手にする、という手はずの契約でした。一年後、女の子の赤ちゃんが無事に産まれましたが、Maryは赤ちゃんに感情移入したため手放したくなくなり、国内の別の州に赤ちゃんを連れて逃げました。 後日警察がフロリダ州に潜伏していたMaryを発見し、赤ちゃんは夫妻の元に返されました。夫妻とMaryは法廷で親権を争うこととなったのです。

ニュージャージー州の法廷では、結ばれた契約通りに夫妻が親権を持つべき、という判決が下されました。判決理由をザックリまとめると、「気が変わったからって契約破っちゃダメでしょ、もう!」でした。

 

しかし、Maryは当然判決に不服なので、最高裁に上訴します。すると判決が一部覆ります。最高裁の裁判官は、夫妻が親権を持つべきではあるものの、夫が父、Maryが母であるとしたのです。Maryの面会の権利を整理するよう指示しました。

判決理由をザックリまとめると、「契約どうこうよりさ、子供のことを考えようよ。どう考えても夫妻の方が経済的に安定してるでしょ。でもこの契約はちょっとフェアじゃないよ。

だって、実際に出産するまで、その赤ちゃんをどれほど大切に思うかとか、その赤ちゃんを産まれた瞬間手放す時どんな気持ちになるかなんてわかんないじゃん。そういうのをよく理解せずに契約結んじゃってるわけだから。

産んだ瞬間なら手放してもいいと思うかはっきり判断できるだろうけど、産んだらその時点で報酬と引き換えに手放さなきゃダメ、って契約じゃん、コレ。そんなんズルイし」でした。

 

つまり、契約の当事者が契約のもたらす影響についてきちんと理解していない状態で結んだ契約は無効であるという考えが、夫妻とMaryが結んだ契約を無効としたのです。

 

新婚さんは結婚するとどうなるか、きちんと理解している?

悪質な営業行為で強引に契約を結ばれた時や巧みな勧誘に乗せられよく考えずに商品を購入してしまった時などに、クーリングオフという制度を使って契約をペナルティーなしで解除することができます。

消費者の方が契約の内容をよく理解していなかったり、冷静な判断ができない状態の時に結んだ契約は無効にできるようにしておかないと、アンフェアな商売が横行してしまうからです。

アレ?これってさっきの代理出産の件と似ていますよね。契約者のどちらかが、契約の意味をよく理解していないまま契約を締結してしまった場合は無効にすることができるようにあるべき。そういう考え方です。

 

さて、結婚したら、結婚相手と以外とはオトナの関係を持ってはいけません。ワタシは男なので女性のみなさんがどうお考えかわかりませんが、そりゃあプロポーズする時は相手しか見えていませんよ。他の人と関係を持とうなんてさらさら思っていません。だから結婚という契約のルールに同意するわけです。

・・・でも時と共に色々な状況が変化していき、同時に気持ちも変化していくのです。恋人だった二人の間には、親族との付き合いとかマイホームとか子供とか、家庭を支え合う上で次々と責任が生まれて、気づいたら恋人同士というより2名から成るプロジェクトチームの関係になっています。

結婚する前の結婚の目的は二人の愛の成就を盛大に祝う意味合いが大きかったのに、結婚後数年経つと、結婚の目的は「家庭」というプロジェクトを無事に走らせることになってきます。アレ・・・なんか当初の結婚のイメージと違うんですけど・・・・・。

そして「離婚」というクーリングオフをしようにも、もう親戚とかお世話になった人とか大勢の前で結婚式やっちゃったし、マイホームのローン折半しちゃってるし、子供いるし・・・・別に離婚したいとは思わないけど、結婚当初いた恋人はもう、いません。あんなに好きだった恋人は、今や家族とかビジネスパートナーみたいな感じになっちゃいました。信頼はしているけど恋愛感情的な愛情はもう湧いてこない。・・・・聞いてないんですけど・・・・!!って、ほとんどのカップルは思うと思います。

 

再婚ならともかく、初婚の場合は明らかに契約者が契約を結んだ結果どうなるかよく理解していませんし、パートナーへの愛情が爆発していて冷静な判断ができない状態の時に結婚という契約を結んでいます。アレ?これってさっきの代理出産の件と似ていますよね。

 

「離婚」というクーリングオフまでは行かなくても、「Maryを母親として認めるので子供との面会はアリ」みたいな落とし所があってもいいのではないでしょうか。

たとえば・・・節度ある不倫とかさ・・・・。家庭というプロジェクトをないがしろにしないことを条件に、既婚者にも人生を楽しませてあげようよ・・・。

一生恋愛をできなくさせる結婚って、ネコに「発情期にエキサイトしすぎないようにするためにちょっと病院で処置してもらおう」ってオブラートに包んで病院に行かせといてバッサリ去勢し、一生エキサイトできなくさせるみたいなものではないでしょうか。

あなたがネコならどう思いますか?・・・「だまされた」ですよね。

 

現代において平均寿命がどんどん伸びているということは、結婚という契約が課す「エキサイトできなくさせる」期間も伸びているということです。不貞行為をしてはいけないという制約が年々、割りに合わないものになってきているということです。それを無知な初婚者に課すのは、少し理不尽ではないでしょうか。

マイケル・サンデル教授は講義や著書で契約書に書いてあること=正義とは限らない、ということを世界中の人々に啓蒙しています。